あじさい |
||
エッセイ・あじさい |
||
HOME>あじさいの思い出 | ||
|
以前に住んでいた人が植えたあじさいが、この家に越して来て、初めて迎えた初夏に咲きました。ずーっと以前の、あじさいの記憶が蘇りました。 エッセイ・あじさいの苦い思い出です。 |
|
今でもあの時の映像は、はっきりと脳裏に焼きついています。 玄関の戸を開けたとき、上がり框の障子は開いていました。二間続きの奥の座敷に、あねさん被りの祖母が朝食を食べていたのでしょう、ちゃぶ台を前にして丸めた背中を向こう向きにして座っていました。その祖母に向かってわたしは「死んじゃった」と叫んだのです。 |
わたしは妹の病状や母の言動から、何らかの不安を感じていました。妹の「死」による喪失感を漠然と感じ取り、縁起を担いでいたのかもしれません。不吉な言葉を口にだしてしまえば「死」につながるような気がしていたのです。だから、「死」という言葉を口にだす前に、一瞬、確かに戸惑ったのです。 それなのに、なぜ口走ってしまったのか・・・。 |
「なんてことを・・・ああ〜・・」と、祖母は呟きながら下駄を突っかけ、駈け出しました。 家に近づくにつれ、祖母のカタカタと鳴る高い下駄の音がなおさら不安を掻き立て、〈美子はもう死んでしまうんだ・・・〉、その思いだけが頭の中をグルグルと駆け巡っていました。 病院でのわたしのおどける姿に、キャッキャと喜ぶ妹の笑顔が過りました。わたしは妹の死を口にした自分を責めました。この辛い現実を誰かに打ち消してもらいたく、心の中で助けを求めていました。涙が拭っても拭ってもあふれ出て止まりませんでした。 祖母が家に着いて間もなくして、妹は亡くなりました。 |
|
|