ツツジ 花

エッセイツツジの花の思い出

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〜エッセイ ツツジの思い出〜
3月の末に薬師池公園を散策していたときでした。水車小屋に向かう道沿いに植えてあるツツジの群落を見たとき、10年前の私の頭に焼きついていたある経験が、突然思い出されました。
水車とツツジのある道
ツツジの時期にはまだ早く、花が咲いていないので寂しい印象ですが、右側にある道の両沿いにもツツジが植えてあり、当時はこの一面に、淡いピンクと濃いピンクのツツジが競い合うように咲き誇っていました。水車小屋とツツジとがセットになったこの景色は、忘れられない印象として残っています。




昨日今日と下着に付いた不正出血に気づき、婦人科の診察を受けたのは、平成11年の4月の末でした。大病院は待ち時間が長いので、近くの小さな産・婦人科を選びました。

「不正出血したとなると、ガンの検査をしますからよろしいですね」一見するとおとなしそうな中年の先生でした。受付にもその旨を伝え、そのつもりで受診したのに、開口一番にそう念を押されました。


診察台に横たわると両足を固定され、下半身をカーテンで閉ざされました。静かでカチャカチャという金属の触れあう音が聞こえ、しばらくして医師の気配を感じました。膝に生あたたかい手が触れ、下半身に冷たい金属の感触がありました。すると真上のモニターに超音波画像による私の子宮内部が映し出されたのです。
左の端に2センチ弱の小さな影があるのに気づき、全身に緊張が走りました。ファイバースコープの×印が現れ、ピッピッと音を立てたように移動してその影のところでピタッと止まりました。
「ちょっと痛いですよ、がまんしてください」と、医師の声が聞こえました。

着替えをして診察室に戻ると、先ほどの超音波画像の写真が、医師の机の上に並べてありました。気になっていたので恐る恐るこの影が何であるのか訊いてみました。「ああ、これね・・・なんでもありませんよ、何かのかげんで写ったのでしょう」


ここで私は少し不安になりました。何かのかげんではなく、この部分を病理検査のため切り取ったはずなのです。医師は私の思惑などかまわずにカルテにペンを走らせながら、「今まで家族の方でガンにかかったことは?」と訊きました。

「それが、二日前に母が食道ガンと言われ、今、検査入院しているんです」
「ははぁ・・・食道ガンね・・・」とカルテに書き込むと、「前回のガン検査、いつごろでした?」そう訊くと、このとき初めて私の方を振り向き、私を正視しました。






私は結婚して間もないころに子宮外妊娠で手術したことがあります。下腹部の激痛と出血のため救急車で運ばれ、すぐさま開腹手術となりました。

そのときのショックと検査の苦痛から臆病な私は病院恐怖症となり、長い間切羽詰まった状況に追い込まれるまで病院には行かれず、不安をもちながらもガン検査を延ばし延ばししてきました。
救急車
帰り道、医師の言ったことを反芻していました。
「ま、あまりくよくよ考えないことですね。 かと言ってのんびり構えていてもこまりますけど。」「結果がでたあとのことは、そのときにまた考えましようよ」

私には長い間ガン検査をしていないという負い目がありました。それに血縁者である母のガン。特に医師の「結果がでたあとのことは、そのときにまた考えましょうよ」と言った不用意な言葉。この言葉は重い含みとなって私を苦しめ、日に何度となく診察室でのことを思い返していました。


― のんびり構えちゃいけないって、どういうこと? 何でもないこともあるのに、 結果後のことをなんで持ちだすの? まるで何かあるみたい・・ ―

― もしかして先生は初めから分かっていたのかも。念のための検査だったんだ ―

― あの影、1,8ミリくらいあったかな、 あの大きさならもう手遅れ? 転移して いることもある訳 ? ―



初めは単なる疑問でしたが日を追うごとに疑心暗鬼を生じ、疑いはどんどん深まっていきました。胃は正直なもので、すぐに水分以外何も喉を通らなくなりました。結果が分かるのは連休明けの5月6日で、10日後でした。




母が検査入院して五日目、その検査結果が知らされました。やはり食道ガンで、それも末期で手術も不可能だと告げられました。この5月には長男の大事な試験も迫っていました。私のことは夫にだけ知らせ、母の看病のため毎日病院に足を運びました。


昼間は気は紛れても夜はやっかいでした。眠ってしまえば楽なのに、手術の不安と病気の母のことを思い、先々のことを考え、死の恐怖を思っていました。考えたくもないのに、そのことばかりが次から次へと襲いかかり、夜が明けるのをひたすら待ちました。

何も手につかず、じっとしてもいられない、居ても立ってもいられないとはこのことだろうと思いました。
合間を縫って、夫がこの薬師池公園に連れてきてくれたのは、そんな状態のときでした。ツツジはちょうど見ごろで、辺り一面鮮やかに咲いていました。5月の連休とあって園内はたくさんの人で込み合い、みな健康そうで穏やかな顔をしていました。


人のにぎわいの中に身を置いていると、不思議と安心感がありました。夜の闇と、昼の明るい日差しがこんなにも違う感情をもたらすものなのかと驚きました。そしてあの超音波画像が恨めしく思えました。見なければ、まだ検査の段階でこうまで思い悩むことはなかったはずなのです。


物言わぬ花を見つめていると、(来年もまたこの花が見られるのかな・・・) そんな思いがよぎり、ツツジの道を歩いていました。



長い長い10日間が過ぎ、覚悟して臨んだ検査結果は、意外にも小さな子宮筋腫でした。筋腫がまだ小さいので手術は様子を見てからということでした。あっけない幕切れに拍子抜けし、あんなに思い悩んだ自分が滑稽でした。


私は今までありがたいことに、病気らしい病気はしたことはありませんでした。明日が来るのは当たり前、頭の隅で自分は大丈夫と高を括り、危機感も持たず思いあがっていました。それが一瞬にして覆され、初めて怖さを知ったのです。


母はこの2年後に亡くなりました。母もどんなに辛く苦しい思いをしたことか。元気なときに時々会っていたのにその兆候に気づかず、 大切な大切な命を落としました。悔やまれてなりません。
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